ワールドエンド・シャッターチャンス

 

変わらない日常

いつも通り、この待ち合わせ場所から日菜子と一緒に学校へ向かう。

歩幅は自然とそろって、同じ速さで彼女と私の時間が進み始める。

 

 

 「もしあと1年で世界がなくなっちゃうとしたら、楓はどうする。」

 

 

 今から3か月前くらいの頃。1日降った雨のせいで満開だった桜は散っていた。見慣れない校舎に風景。まだ名前も覚えていないクラスメイト。私は終礼が終わるとすぐに教室を抜け出した。校門に向かうと先に終礼を終えた日菜子が待っていた。

 

 

 帰り道、日菜子がいつもにしては珍しいことを話しだした。

 「もしあと1年で世界がなくなっちゃうとしたら、楓はどうする。」

急に投げかけられた質問に私はちょっと考えてから答えた。

 「写真を撮る……かな。」

 

 

 なんで写真だったのかは私にもわからない。でも、あの時違うことを言っていたら今の日常はなかったかもしれない。

 

 

 何気ない質問と答えがきっかけで私たちは写真同好会に入った。日菜子と通学して同好会でまた会う毎日が始まった。

 

 

 いつもの通学路。私は首からカメラをぶら下げる。日菜子は歩きながらスマホを私に向けて笑っている。彼女の手足はすらっとしていてまっすぐ伸びた背筋は実際の身長よりも高く見えた。日菜子は写真を撮ってと言うけれど、私にはまだカメラを彼女に向ける勇気がない。

 

 日菜子の横にいると私は余計に浮いてしまうんじゃないかと思ったりもするけどそこは不思議なほど居心地がよくて安心できた。

 

 「あっ、ねこ」

 「ほんとだ」

 日菜子が立ち止まると私もその横で止まった。

 「シャッターチャンス。動くなよー。」

 日菜子はスマホを私から猫のほうに向ける。

 「あぁ!違う。動けっていうフリじゃないから。」

 「逃げちゃったね。」

 「見てこれ。猫ブレまくって忍者みたいになってる。」

 「これはこれで躍動感あっていいんじゃない。」

 「あーこれじゃまた凛先輩に笑われる」

 

 

 日菜子と学校に向かう間の20分は時々時間を忘れそうになってあっという間に終わる。校門が近づくにつれて生徒たちの騒ぎ声が次第に大きくなってきて現実に引き戻されていく。下駄箱で靴を履き替えて教室に向かう。

 「それじゃまた放課後、同好会で」

 「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作者が自分の小説について解説したりあれこれ語るのは俺自身あんまり好きじゃないけどやっぱり恥ずかしいんで色々言い訳みたいなことをさせてほしい。

 まず写真部とか写真同好会ってスゲーいい響きだなーって思ったんでそれについて妄想を膨らませました。高校ていう3年間しかない(留年は除く)青春と写真っていう一瞬を切り取る刹那的なものの相性の良さです。写真部写真同好会。なんて切ないんだ。通っていた高校に写真部があったら入ってたのにな。

 小説を書くとしたらやっぱり百合を描きたいということで女女二人を登場人物にしました。実のところ百合小説はあんま読んだことが無くて小説は百合SFを中心で読んでます。なので純粋に文学的なのはよくわかっていません。百合SFではハーモニー、裏世界ピクニック、アステリズムに花束を等を履修しました。

 世界っていうワードの胡散臭さとか中二感も思春期特有の空気がでていていいなと思います。ほんとに1年後世界がぶっ壊れるっていう設定もあったりなかったり……

 タイトルはほとんど適当です。横文字を並べたらダサくなるのはなぜか。

 だけどこの小説で書きたかったもの表現したかったものは最後のセリフ

 「それじゃまた放課後、同好会で」

 「うん」

これです。ただこれを書きたかっただけといっても過言ではない。このセリフを解説するのもナンセンスですがさせてください。お願いします。

 「それじゃまた放課後、同好会で」

 「うん」

 二行だけの会話だけどすごい牧歌的でイイと思いませんか。だけど俺が表現しようとしたのはこの牧歌的でなんか学生時代を思い起こしてあのころはよかったなぁみたいなこの会話を主人公の私(楓)目線から見た時にのどかなイメージとは逆の悲痛なイメージを想起させたかったということです。この小説を読んだ人が最後のセリフでそーゆー悲しい方向、胸が締め付けられるような方向に感じてもらっていたらこの小説は成功です。

 次にそもそもなんで小説を書こうと思ったのかを話しさせてください。

きっかけはCaterina BarbieriのEcstatic Computationを聴いていた時になんか小説みたいだなーとふと思ったからです。今までこのアルバムを聴いていてそんなこと思ったことはなかったけどなぜかその時にそう思った。Caterina Barbieriのスタイルはミニマリズムとかドローン。モジュラーシンセとソフトを使ったエレクトロです。特徴的なのはドローンでありながらも持続音をあまり用いずモノフォニックで連続するシーケンスパターンを鳴らし、ハーモニーをつくるところ。アナログモジュラーシンセの特徴と言われる同じ音を鳴らしても微妙に違う音が出る要素も利用してゆっくりな変化をみせる。たまに大きな変化も入れてくる。ディレイは対位法を駆使している。なんかこれを聴いていると小説を読んでいるのに近い感覚になっていく気がするけどどうだろう。

 

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